第1章 運命の輪の歯車/片山望
     Wheel of Fortune







 永遠に狂わない歯車が狂い始めた。
 きっと、永遠に狂い続けるだろう。
 眩暈がして、歯車の軋む音が響く。
 僕は裏切られた様な気分になった。






 街に、サーカスがやってきた。
 午後の授業がかったるいのも手伝って、僕はなんだかサーカスのことばかりを考えて雨降りの午後三時を過ごしていた。
 サーカス。
 自分でもバカバカしいと思いながら、どうしてもこのメルヘンチックな空想から抜け出せない。華やかなパレード、きらびやかなレヴュー。火の輪をくぐるライオン、しなる鞭揺れるブランコと、命懸けのジャンプ。一度も見たことがないせいで、余計に幻想的になっているはずのこの世界に、僕は息苦しいほど惹き寄せられた。

 僕の母さんは、なぜかサーカスにだけは連れていってくれなかった。
 三年ごとにサーカスがやってくると、母さんは時々なんだか悲しそうな顔をしていた。それは何かを耐えているようにも見えたし、何かに憤っているようにも見えた。
 そんな母さんの姿を見ても、僕はサーカスへの憧れを押さえることはできなかった。
 こんな時に子供が泣き付く父親も僕にはいなかったし、八歳や十一歳の子供が一人きりで行くにはサーカスの入場料はあまりに高すぎた。
 二歳の頃のことは覚えてないし、五歳の時はサーカスをやっている駅前の広場まで一人で行くことができなかった。駅までは僕の家からは2キロ近くもあるし、最短距離で行くには当時まだ工事中だったアーケードを通らなければいけなかった。
 中等部に進んでも僕はサーカスが気になってしょうがなかった。でもその頃には自分の身の回りに降り懸かった出来事を片付けるのに精一杯で、一応決着が着いた頃にはすでにサーカスは街を去った後だった。

 新聞の折り込みチラシに書いてあった予定では、今日の午後、要するに今、多分家の近くのアーケードでサーカスの人々が広告のためのパレードを繰り広げているハズだ。雨降りだし、多分ほかの場所でやる予定だったパレードは中止だろう。週間予報にはここ一週間は青い傘のマークしか並んでいなかったから、来週の開演までにサーカスの濃厚なメイクで屋根のない所を出歩ける日は来ないだろう。
 結局パレードを見るチャンスさえ失ってしまったことに気が付いて、僕はちょっとだけブルーになった。

 この街に関して言えば、天気予報はまず確実に当たる。全部雨のマークにしておけば70%以上の確率で当たると言ってもいい。
 さすがにそれはウソだけど。
 でも、この街は雨が多い。
 優しく、激しく、いつでもどこかで雨が降っている。
 滅入った気分を洗い流す慈雨も、川の水を氾濫させる豪雨も、多分、みんなこの街の一部になってしまった。曇り空に慣れてしまった住民は、晴れた日にはサングラスをかける人が多い。知らない人が見たら結構うさん臭い光景だったりしてなかなか楽しい。
 長い間こんな街の中に住んでいたせいで、僕は、古いレコードを聴いている時の様な柔らかいノイズが無いと落ち着いて眠ることさえできなくなってしまった。

 今日も、朝から降り続いている霧雨が、教室の窓を濡らし続けている。
 降りやまない、雨。
 そう言えば、あの時も雨だっ
「望? 望、起きなくていいの?」
 美生?


「もうとっくに授業終わってるよ?」
「マジ?」
「バス、間に合うの?」
 慌てて時計を見た。スクールバスの発車時間まで後十分弱。机の上を片付けてからでもバス停までそんなに急がなくてもなんとか間に合う。
「間に合うよ」
「確か、望の家の方に行くバスって四十分出発だよね? 今、三十七分なんだけど」
 美生が左手の時計を見せた。確かに、僕の時計よりも五分くらい進んでいる。
「美生の時計が進んでんだよ」
 僕は右腕につけた腕時計を美生に見せた。クォーツ時計だけど、秒針、分針、時針の三つの銀色の歯車の形をした文字盤が動く、お気に入りのデザインの時計で、五年の間一度も狂ったことがない。
「望の時計が遅れてるんだよ。ちょっと見せて」
 美生が僕の右腕をつかんで時計を見た。一瞬、美生の指が僕の素肌に触れて、ちょっと緊張した。
「やっぱり……」
 美生がなんだか真剣な顔で黙り込んだ。
「な、だから美生のが進んでるんだって。……そろそろ行かないと、マジで遅れ――」
 そう言いながら僕は自分の席から立ち上がろうとした。
 ちょっと眩暈。
 視界が、狂う。

 少し、悪寒がする。
 今朝から、軽い頭痛がする。
 ……。
 ぴき、ぴき、ぴき、
 歯車が空回りして、
 軋む。

「望、望?」
 美生が心配そうに僕の顔を覗き込んでいるのが見えた。
「大丈夫、行こう」
 僕はまた右腕の時計を見た。まだ、急げば間に合う。美生はバイク通学だし逆方向から通ってるんだから別に一緒に行く必要はなんだけど、なんとなく、バス停と駐輪場のあるところまでは一緒に行くのが日課だった。良く言えばお友達だから、悪く言えば腐れ縁、もしくは煮え切らない関係。
 顔を上げると、美生が妙な顔で僕を見ている。泣きそうにも見えた。
「ね、望、今日は私が送ってあげるから、明日は休んだ方がいいよ」
「なんで? 平気だって。こんなのただの風邪かなんかだろ? 大袈裟に騒ぐほどのことじゃないよ。それに、そろそろヤバいけどまだバスにも間に合う、ハズだし」
「だって、」
 美生は顔を伏せて呟いた。
「望の時計、ホントに遅れてたよ。私の時計チャイムに合ってたし。バス、もう行っちゃったよ。それに望、顔色悪いし、死んだ人みたいに手が冷たかったし」
「やめろよ」
 そう言った僕の声に棘があるのに僕は気が付いていた。
 僕は、『死んだ人』の部分よりも『時計』の部分にイライラしていたらしい。なんだか凄く嫌な気分だった。不条理なのは解っていても、美生の方が僕よりも1cm背が高いのも美生の方がバランス良く点数がとれることも美生が運動神経抜群なのも、美生がバイクに乗せてあげると言ったことも、美生のバイクに乗る時に僕が後ろのシートで美生に抱きつかなきゃならないことも、何も彼も全部美生のせいに思えてきてムカついてきた。
「美生、美生は僕の恋人でも母親でもないんだろ? 僕の身体のことを心配してくれなんて誰が頼んだよ」
「何よ? 私は、望のこと心配してるだけでしょ? そういう言い方ってないんじゃないの?」

「ねえ、」
 聞き慣れた声がしたので振り向くと、さっきまで無人だったはずの教室に千洋がいた。隣には彰もいる。僕は二人が何時の間にか教室に入ってきていたのに気が付かなかった。多分美生は気付いていたんだろうけど。
「何が原因だか知らないけど、ケンカ、やめようよ。……望君、バス行っちゃったけど、どうすんの? 予定ある?」
「やっぱり、遅れちゃったのか。何、千洋? またカラオケ?」
 千洋はカラオケが好きで、globeを歌うのが得意だから、僕はよくマークの係で駆り出される。パフィーは美生と、彰は歌わない。たまに無理やり歌わせると誰も知らないような洋楽を歌う。
「違うよ。今日は彰の用事。ね、彰、サーカスに行きたいんだよね?」
「サーカス?!」
「うん。駅前にきてる変わった名前のサーカス。何だっけ」
「"MASQUERADERS"、意味は仮面の舞踏者」
 美生が言った。なんで知ってるんだろ?
「でも開演は来週からだろ?」
「別にサーカスのショウを見に行きてえわけじゃねえよ。知り合いがいるから、ちょっと顔でも見せに行こうかと思ってよ」
「やめてくれよ、彰。その凶悪な外見で『サーカス』とか言うの」
 僕は笑いそうになった。
 って言うか笑った。
 彰の外見は本気で凶悪で、道であったら是非避けて通りたいタイプだからだ。栄養不足で痩せた頸と伸ばしっぱなしで傷んだ長髪、長身のクセに猫背で見上げるような視線は、他人が見たらかなり怖い。外見通り性格も歪んでいる。神経質で、陰険。その痩せた身体のどこにそんな力があるのか、ケンカも強いらしい。

 だから、彰の口から『サーカス』と言う単語が出ると凄い違和感がある。
 そんな訳で、僕には彰とサーカスの接点がまるで見付からなかった。でも、美生は何かに思い至ったらしい。
「ケルベロスに会いに行くの?」
「久し振りだからな。美生も行くだろ?」
「うん。そっか、もう3年も経つんだ」
「まだ3年、少なくとも俺にとってはな」
「そうね」
「ねえねえ、ケルベロスって誰? 美生ちゃん、知ってるんなら教えてよ。彰、私には教えてくれないのよ。望君も知ってるの?」
 ふてくされたように千洋が言った。
「ん、心当たりない。誰?」
「ケルベロスは彰君の――」
 美生が何か言い掛けて、
「会えたら紹介するよ」
 彰がさえぎった。
 3年前、という二人の台詞から、僕の知らない『ケルベロス』という人物はあのいざこざの中で知り合った人物の可能性が高い。つまり、僕が自分のことで手一杯だった時期にいつの間にか始まっていつの間にか終わっていた彰や美生に関する『事件』の関係者。
 そんな訳で僕はちょっとだけ嫉妬した。
 多分、千洋も。

 あの『事件』で僕は知らない間に幕を降ろす役割を果たしていたらしく、まったく無関係だったはずの僕の行動が二人の行動の先にあったはずの予定調和を激しく狂わせて、結果『事件』そのものがまったく違う意味でだけ残ってしまった、らしい。
 これは僕が『事件』が終わった後でいろいろと飛び交った噂を集めてだした結論だから実際のところその『事件』で僕が果たした役割がなんだったのかは、僕自身も正確には知らない。

 ただ覚えているのは、血の滲んだブラウスと、壊れたマウンテンバイク、そして、物陰で笑う、
 ナジャ――

 ――あなたの傍にいるだけで、どんな運命でも狂ってしまうのよ。
 どうして私を殺したの。
 どうして私を殺したの。
 私はあなたに


 彰と美生がバイクを正門前まで回してくる間、僕と千洋はバス停で雨宿りしていた。
「遅いな」
 僕は右腕の時計を見た。
 そう言えば。
「千洋、携帯って時報OKなんだよね?」
「うん。救急車は呼べないみたいだけど。なんで?」
「ちょっとね。貸して」
「いいよ」
 僕は右腕の時計を見ながら携帯で時報を聞いた。千洋が妙な顔で見ている。
 ……やっぱり、遅れている。
 僕はなんだか裏切られたような気分になった。
「ね、望君? ずーっと気になってたんだけど、なんで時計、右につけてるの? 普通右利きの人って左腕につけるでしょ? 不便じゃない?」
 千洋が訊いた。実はこの質問には僕も上手く答えられない。5年前初めて腕時計をつけ始めた頃から僕はなぜかずっと右につけていたから。
「なんかさ、バランス悪いんだ、左だと」
 とりあえずこう答えるのが一番無難な気がしている。
 ファッション、でもないし、とくにこだわりがあるわけでもないし。でも誰もこんな答えじゃ納得しない。意外に、右腕に時計をつける理由の質問はよくされるから、経験上。ましてや理屈屋の千洋相手じゃ、絶対に納得しないと思った。
「そういうのって、あるよね」
 納得した。妙な気分だった。
「うん」

 お母さん、
 母親のエプロンの結び目に向かって呼び掛ける。
 返事はない。
 ……
 母親は後で呼んでいる自分の子供には気が付かずに、薄いブルーのワイシャツに向かって、しきりに何か言う。
 お母さん、
 ワイシャツは母親のドレッサーの前でネクタイを直し、右手でコームを手にとる。
 キラリ、
 コームを持った方の手の袖で何かが光を反射する。
 高そうな、男物の時計だ。
 日が暮れかけているのか、窓から差し込む光が薄暗い。
 こっちよ、
 薄く開いたドアの向こうから、
「望君?」
 千洋が声を掛けた。

「大丈夫? 顔、真っ青だよ」
「うん、大丈夫。ちょっと調子悪いだけだから」
 僕は何人もの男達がその番号を知りたがっている千洋の携帯を返しながら言った。
「サーカスやめて、帰ろうか? サーカス、まだ当分はいるんだし」
「いいよ。僕もサーカスには興味あるし」
「あんまり、ムリしないでね」
「うん」
「ねえ、調子悪い時って、やっぱり占いの結果に影響出たりするの?」
「一概には言えないけど、僕の場合は、そうでもないと思う。ただ、体調悪いとさ、考えるの面倒臭いじゃない? だから、正しい結果が出てても、ちゃんと読み取れないってことはあると思う」
「そ、だね」
「うん」

 中等部の頃になぜか突然占いのブームがやってきて、じゃあ僕も、という感じでやってみたらどういうわけか良く当たる。そんなわけで僕の特技は占いになってしまった。今ではすっかりに占いフリークの千洋の専属占い師になってしまっているけど、その頃は沢山の女の子達が僕に相談しにきたりした。
 でも、本当に好きだった娘のことは占ったことがなかった。
 当たり過ぎるから、怖かったのかもしれない。
 ――あなたの占いは当たるのではなくて、占った方向に人の運命を狂わせてしまうだけなのよ。
 ちょうど、歯車がずれてまったく別の働きをしてしまう様に。
 あなたは知らないだけ。
 それが、あなたの罪。
 ねえ、
 どうして私を殺したのよ。

 鉄色の山が崩れる。
 その鉄パイプは僕や緑がいた方から見るとただの筒で、比較的安全そうに見えた。
 でも、反対側はジョイントのためなのか鋭くなっていて、そのうち一本が緑の左の首筋から右の脇の下までを大きく裂いた。
 白いブラウスに、真っ赤な血が滲む。
「望君、彰達来たよ」
 真っ赤な傘を持った千洋が言った。

 爆音を響かせて、美生と彰のバイクが正門に到着した。この学校には市の内外から生徒が集まっているので、結構距離のあるところから通学している人も多い。だから必然的にバイク通学もOKで、他の生徒もバス通学や自転車通学になる。住宅街からは離れた位置にあるので徒歩の生徒はほとんどいない。

 バイクが雨の中を走っていく。
 振動が、熱っぽい身体を刺激する。
 ぴき、ぴき、ぴき、
 狂い続ける歯車が、
 軋む。

 雨が、冷たい。      

 美生のバイクの後ろで坂道を下っていると時々ヘルメットからはみ出した髪が風になびいて美生の首筋が見える。
 痣?
 白、って言うよりも銀色の、五百円玉位の大きさの何かが、美生の襟の辺りにあった。それは美生が首が出る服を着たがらない理由と関係があるのかもしれない。でも、僕はそれについて訊こうとしたことがないから、良く、解らない。
 その痣がいつからあるのかも僕は知らないし、例の『事件』に関係があるのかどうかも知らない。
 僕は何も訊かなかったし、訊けなかった。
 美生に『揺らぎ』が戻ってしまうのが嫌だったから。


 駅前広場に着いた。
 僕等は駐輪場にバイクを止めて、『関係者以外立入禁止』の札の下がったロープの張ってある、準備中のサーカスに侵入した。
 巨大なサーカスのテントの陰には、貨物用のコンテナみたいなものがいくつも並んでいた。多分、サーカスの人達の居住スペースか何かなんだろう。その後ろ側に、トレーラーとかキャンピングカーとかが、行儀よくパーキングしてある。サーカスの中にもちゃんと縦社会があって、団長とか偉い人はそういうイイのに住んでいるのかもしれない。

「君達、そこの札、読めなかったの?」
 眼鏡をかけた、頭の良さそうな女の人が僕達無断侵入者御一行様を呼び止めた。
「ケルベロス、いる?」
 彰がぼそぼそと言った。
「何だ、君達、ケルの知り合いなの? ……まあいいわ。さっきまでパレードで街に出てたから、今頃自分の部屋で休んでるんじゃない?」
「どっち?」
「言ったとしても絶対迷うわよ。……いいわ、呼んでくるから。君、名前は?」
「三島」
「三島、何? 名乗るときはフルネームで言うものよ」
「三島、彰。三つの島に表彰の彰。これでいいんだろ?」
「そう、それでいいのよ。その辺で雨宿りでもしてなさい。いい子にしてるのよ」
 女の人はそう言い残して雨の中を走り去った。
「何なんだ、あいつ」彰が呟いた。
「そう? 間違ったことなんて言ってないでしょ?」
 千洋がからかった。
「もうちょっと言い方ってあるだろ?」
「それは彰がさっき言われたのと同じ事でしょ?」
「うるせえよ」
 いかにもかったるそうに答えている割に、彰は別に怒ってない。千洋もそうだけど、彰は母親っぽいのが嫌いじゃないらしい。多分だけど。

 銀髪のヴェリーショートのピエロがやってきた。
 雨でメイクが剥げてて、ちょっとだけグロい。
「彰? そっちにいるのは……美生か? 感じ変わったな。ちょっとわかんなかったぞ」
 プラチナブロンドのピエロは、嬉しそうに言った。
 やっぱり知らない。
 顔は、確実に日本人じゃない。しかも、この訛り方は、英語圏でさえない。完全にカンだけど。
「ひさしぶり」
 彰が言った。
「ひさしぶりね、ケル」
 美生が言った。
「ケルベロスだ。このサーカスで曲芸師のチーフをしている。今後ともよろしく、みなさん。雨降りだし、まあ、来いよ」

 僕達はなんだか事務室のような内装のコンテナに入って、ケルベロスが用意してくれたコーヒーで冷えた体を暖めていた。
「こっちは千洋」
 彰が千洋を紹介した。
「おいおい、可愛い娘じゃないか。で?」
「で?」
「お前のアレなのか?」
「……何を言わせたいんだ?」
 イライラしたように彰が言った。
「私って彰のなんなの?」
 千洋も意地悪く言った。
 目が笑っている。
「何言ってんだ、今更」
 彰が、不機嫌そうに、言った。
「神崎千洋です。彰とお付き合いしてます。よろしく」
 千洋が、礼儀正しく、言ったのが、聞こえた。
「君が片山君だね? 美生や彰に話を聞いたことがある。美生の、彼氏なんだろ?」
「そんなんじゃないってば!」
 美生が強く否定した。そんなに嫌か?
 ……、本当の、こと、だけど。
「あ――」
 ……何だろう。
 頭が、くらくら、する。
 雨の、中を、何かが通り抜け

 ナジャ?

「おい、……しろ!」
 彰?
「だか……しないでって……のに」
 千洋?
「ケルベロス! タケルがまた倒れたわ! 手伝って!」
 誰?
 タケル?


 薄く開いたドアの向こうから、ナジャが顔を出した。
 大きな瞳をした、女の子。
 怖いくらいに澄んだ瞳が、僕を捕らえた。