第17話 "MIO"
空が、とても悲しい色をしていた。
目醒めた時、今が何時なのか澪(椎名瑞樹:しいなみずき)には解らなかった。
空は曇り、薄く明るいので夜ではない事だけはかろうじて解った。
−明け方か、それともこれから暮れるのか。
多分、もうすぐ朝が来る。
そんな気がした。
双子の妹のたすく(椎名珠樹:しいなたまき)がSMDでDD病棟に入院してからもうすぐ2週間が経つ。
SMD...脳内チップに進入したウィルスによって健康管理プログラムが書き換えられ、昏睡状態が続き、生命維持装置に繋がなければやがて衰弱死する、と言われている。
でも。
澪は知っていた。
SMDで死ぬ事は多分、無い。
ああ、やっぱり夜が明ける。
この時間が澪は好きだった。サイバースペースからは人が去り、街からは音が消え、少しだけ、孤独、を知る事が出来そうな気がする。
もっと孤独を知るべきなのよ。
たすくはそう言った。
サイバースペースと言う鎖につながれていると、完全なプライベイトと言う物を手に入れるのは難しい。欲しい物も、話の会う友人も、求める知識も、どれもとても簡単に手に入るし、手に入るものを我慢するのは難しい。しかもそれは、選んだり悩んだりする必要すら無い。欲しいものは必ず手に入る。
...限界が無い訳じゃないけどね。
澪はずっと「心」が欲しかった。
「心」が何処にあるのか知りたかった。
たすくはそれのある場所を知っていたのかもしれない。
SMDで入院している知人はたすくだけではなかった。
澪とたすくの祖父母。
学校でたすくの担任だった「くー」。
クラスメイトにも何人か。
...そして伯父の「げN」(蜂谷源一郎:はちやげんいちろう)。
伯父はDDの治療を研究している生物学者だった。
手術(DDの場合でも本当にそういうのかどうか澪は知らなかったし興味も無かった)の途中でSMDに感染し、数日後に発病した。
同時に手術?に関わったネットセキュリティの人間はその場で昏睡状態になったと言う事なので、おそらく潜伏するタイプとしないタイプがあるんだろう。たすくはDDに興味を持っていて、げNともよくメール(しかも添付ファイル付きの有線メール)をやり取りしていたから、それで感染したのかもしれない。
澪は何も知らない。
二人とも「眠って」しまった。
澪は窓の外を見た。
不思議な色に染まっていく景色。
澪は何も知らない。
ただ、
その時、有線メールの到着を知らせる無線メールが澪に届いた。