第11話 “PAINTITBLACK”
何もかもを。
歓楽街へ向かう車の中、黒大哥は助手席の徒然に一度も声を掛けなかった。普段は無口で必要な事以外殆ど話さない黒大哥だが、それでも運転中だけは少しだけ口数が増えた。ドライバーズハイとか言うタイプなのかもしれない。生身で行動する機会が酷く少ない時代なので、運転が出来るのはある意味で特殊技能であり、その所為で運転中にテンションが上がる種類の人間が増えたらしい、という記事を呼んだ事があるのを徒然は思い出していた。
しかし、今日は一言も喋らない。
「星旗六門」の仕事に愛人を連れて行くのは始めてだった。空き拡張スロットを持つ徒然は今回の「ソフト」狩りにはどうしても必要だった。のぶままの送ってきたリストには五人もの名前が載っていたが、「星旗六門」内で空きスロットがあるのは黒大哥と徒然の二人だけだった。残りはチップ自体を取り出すか生身で連れ帰るしかない。多分、殺す事になるだろう。
99%に足を踏み入れるのは久しぶりだった。事情通でトラブル処理屋だったのぶままに仕事を依頼する為に通っていた。
「星旗六門」を立ちあげる直前までそれは続き、「星旗六門」を始めてからは全く足を向けていなかった。
スバルとも店で知り合った。
別れて随分経つ。
0時。
店のドアを開ける。
皆殺しでも構わなかった。
ソフトを奪えばどの道死ぬ。
殺してからでもソフトは奪える。
「マスター、久しぶりだな。」
銃口を向ける。
悲鳴が沸き上がる。男と、女と、女のような男の声。耳障りだった。
「ボックスのお客は多分全員保持者。一人はあのCBK。その若い子も多分そう。カウンターは端末の近くにいるのがAEOのたえこ。もう一人いるけど今日は来てないね。後は俺。手早くな。」
「おう」
「残りの人は……」
ボックスに銃を向けながら微かに震えた声で徒然が聞く。銃口も震えている。
「逃がすか、殺すか、お前が決めろ。逃がすなら、多分、もう昼の仕事は出来ないぞ」
「……」
「決めろ」
「殺し、て」
黒大哥の銃が、近い場所から順番にカウンターの客の頭を撃ち抜いた。カウンターの中のボトルが銃声の回数だけ正確に割れた。全弾貫通したらしい。
「何が目的だ」
それまでの騒ぎにも何の反応も見せなかったたえこが振り向き、黒大哥に話し掛けた。巨漢のたえこが立ち上がると店が狭く見える。
「立つな。」
パン、と乾いた音がして銃弾がたえこの足の甲にめり込む。
「逃げろ!」
建物が震えるような大声で叫ぶと、たえこは黒大哥に飛び掛かった。
ごっつはそれが自分達に向けられた物だと言う事に気付くのに数秒かかってしまった。たえこの怒号で耳が痺れたまま、ごっつはまだ半覚醒状態のスバルを抱え、チカコに目配せをして走り出した。
「徒然!」
たえこの下で黒大哥が叫ぶ。
「嫌……」
目を閉じたまま、震える指が引き鉄を引いた。
CBKを抱えて動き出したチカコの背中に何度も鉛玉が打ち込まれた。
チカコの手から抜け落ちたCBKは、階段を転がっていった。
更に2回、銃声が響いた。