第10話 “99%”
もう何も要らない。
最後に合った時、「彼」はまだ少年だった。今、何らかのウィルスに感染したらしいスバルを介抱している少年は「彼」の面影が少しだけあった。
しかし、その「彼」が「誰」だったのか、そこまでは思い出せない。いままでの人生でのぶまま(浅田信彦:あさだのぶひこ)の前に現れた人間の誰か一人だ。少なくとも特別な一人、ではない。
ちょっと苦笑いをして、のぶままは自分が仕組んだ今日の「フェアウェルパーティ」を続ける事にした。
さあ、最後の仕事だ。
「スバルさん?」
ごっつと名乗った少年はダウンロードが終わって気を失ったスバルを抱えたまま半泣きの顔で名前を呼んでいる。
「ちょっと貸してごらん」
スバルのコネクタを自分の物と繋ぎ、データを解析しながら整理する。デジタルなトラブルならお手の物だった。
「マスター、大丈夫ですか?」
ごっつは不安そうな顔でのぶままを見る。
こいつ、知ってるな。
おそらくスバルに何が起こったか、ごっつは全て知っている。スバルのチップのデータが正体不明の“heaven”に書きかえられた事も、“heaven”がKMRに感染している事も。
まあいい。
どうせもうすぐ終わる。
手際良くスバルのファイルに修復を施す。破壊型ウィルス型「ソフト」“ISR”のスバルを選ぶとは、“heaven”の人選は完璧だ。
いいパーティになりそうだった。
のぶままの解析によると、“ISR”は完全な破壊型ウィルスで、他人のデータを削除する。ただし、破壊するファイルはランダムに選択されるので、本格的なクラッキングなどには向かない。しかし、それに“heaven”の乱数決定能力をミックスすれば、狙ったファイルを指定して削除する事が可能になる。さらにKMRに感染しているから、「心の中」のファイルでさえ消せる。
完璧だった。
時計を見る。11時45分。今朝のぶままが書いたリストを持った黒大哥と「星旗六門」一味が、「ソフト」狩りにやってくるまで、後15分。
「……」
スバルのうめき声が聞こえた。
「スバルさん」
「……悟史」
虚ろな瞳でごっつを見ながらスバルが言った。別人のような声だった。
「いかこ」
人格の交代は無事に済んだらしい。
99%のフェアウェルパーティの開始だ。
まもなく、黒大哥がやってくる。