第5話“MONOLOGUE”

 蛍(小野寺真由:おのでらまゆ)は今日も、自分以外誰もいないオフィスでモニターに向かっている。機密保持の為、蛍は誰にも会う事が出来ない。従業員は蛍の知る限り蛍しかいない。
 更に、「ファーム」は最強のセキュリティを持っている為、うかつにサイバースペースに出る事も出来ない。内部と外部を完全に遮断する為、外部からの侵入は勿論、中にいる者が外界とアクセスする事すら難しい。と、言うよりも、事実上不可能である。

 退屈な仕事。
 蛍が「ファーム」で行っているのは、生物らしい、ナンバーでしか表記されていない何者かのデータの管理と、「脳内チップ」(「ファーム」においては家畜にもチップが埋め込まれている、らしい)の拒否反応の抑制実験を行う事だった。
 実際のところ、蛍は自分が管理しているデータや、自分の実験の成果が何に使われているのかすら知らない。建前は知っている。でも、それが真実ではない事にはとっくに気が付いていた。

 予想は出来る。
 でも結論に辿り着くのは怖い。


 この仕事に蛍が抜擢されたのには理由があった。
 「脳内チップ」のみで作業をしても、ノイズが入らないからだ。
 この能力により、通常何人もの人手が必要なところを、蛍一人でまかなう事が出来る。
 これは蛍の才能だった。
 通常、「チップ」のみで、モニターもコンピューターも通さずに作業すると大量のノイズ……雑念が混じってしまう。その為、数字やプログラム等の正確さを要求される物を扱う時には「チップ」+コンピューターの両方を使ってノイズを除去し、それをモニター上で確認しながら行うのが普通だった。その所為で、コストと時間のロスが著しい。
 トップクラスのプログラマーやハッカーなどなら、ある程度自力でノイズを除去できるが、100%取り除く事はほとんど不可能に近い。
 蛍はそれが出来た。ノイズの混じらない、クリアな作業を一人で行う事が出来た。

 その所為で蛍は孤独になった。


 「彼等」は、突然やってきた。
 蛍が「ファーム」に就職して初めて出会った他人だった。

 蛍よりは年上に見える男性と、同い年くらいの女性。

 蛍はモニター越しに「彼等」を見ていた。
 危険な前兆だった。
 でも。
 どきどきしている自分がいる。
 不思議な気分だった。

 あと4枚……3枚……。
 「彼等」がこの部屋に到達するまでのドアの枚数を数えながら、蛍は覚悟を決めた。

 ここから連れ出してもらおう。