第3話 “CBK”

 新しいYKMが発動したらしい。

 時間の問題だ……。

 そう呟いてちびかい(茂野海:しげのかい)はまた一息グラスを煽った。


 ちびかいがハッカーを廃業してもう何年も経つ。

 原因は「ファーム」への侵入の失敗だった。脳に仕込まれたチップがファイアウォールによって焼き切られ、サイバースペースへのアクセスが制限されるようになり、ハッカーとして成り立たなくなってしまったからだ。高度な外科手術を必要とするチップの埋め込みには一介のハッカーには手が出せない領域だった。死体から抽出して闇医者に手術させる手段が無いでもないが、チップは膨大な量のデータを管理しているので他者のチップを埋め込む事は自殺行為に等しい。第一ちびかいには闇医者へのコネなど無かった。

 「ファーム」に初めて挑んだハッカーがちびかいだった。

 YKMウィルスに対するCBKワクチンを造る際に副産物として出来上がった、サイバースペースには流していないCBKウィルスとでも言うべきYKMウィルスの改造版でファイアウォールを通り抜けようとしたのだが、YKMウィルスが投げやりとも言えるまでに破棄していたセキュリティ的な面をサポートしすぎた所為もあってか、肝心なファイアウォール通り抜けの方がおろそかになっていた。

 そしてちびかいのハッカー生命と共に事実上の現代社会での存在が消え、今日もネオンの街へ繰り出し、酒をのみ、酔っ払い、道端で眠る。